吉井源太の共進会演説「貿易紙」
明治27年(1894)
(原文/抜粋)
第一 掛引セラルルハ館ニ奸商ナルカ我カ品ノ素悪ナルカ此両様如何
第二 此素製ヲ見テ此処ニ付込 紙モノ入ラヌト云立ル 然レトモ爰ニ日本資力有リテ外ノ計略ニノラズ イツ迄モ其品持ツ事出来ルナレハ需用有ル品ナレハ 外ヨリ申キタル事ナリ舛カ 迷外ニ於テ其色ハ見セヌナリ 之ハ日本小国ヲ嘆息スヘシヨリ仕方ガ有リマセヌ 製造家販路者 能々心ヲ合テ 内ノ競走ヲ止メ 各自シテ互ニ貿易拡張トタルヲ冀フ望ス
第三 外只日本ノ品ヲ疑ヒ 百ナレ百一々ノモノ検査セ子ハ 其買入セント云ハ 是只双方トモ心ノ解合カ少イト云フモノト存升 何卒此間ヲ能々解合心置ナキ事ニシテ 貿易品ヲ丁度薬屋カ得意先へ薬ヲ買入ル様ノ有様ニ致シ度モノニ有リ升 然ニ此解合事ハ交際上薄キニ有ルカラ外人ト懇親会ト存舛
第四 外々ヨリ見本ヲ持入 同品 同格ノ品ヲ以テ 安價ニ出来ルト申込先方ノ努力ヲ奪取ル事山々御座リ升カ 其實夫レハ行ハレル事テハ有マセン 是カ只共倒レト云為也 世ノ悪進歩ニ御座リ舛 夫レニ依テ大井ニ原品家ニ込リカ有リ舛 外カ承知致シメヌカラ 是ハ大ナル共倒トナル 少シ大目ヲ見開キ合ふノ事ヨリアス アサッテノ事ニ見子 因事運歩トナリマセンカラ諸君能能御注意相成度
(現代語訳)
[石川県で開かれた府県連合共進会で審査官となった時のものと思われる]
第一 掛け引きされるのは館の商人が奸商(ずるい商人)だからか、我が品が素悪だからかどちらであろうか。
第二 粗悪品を見てこれにつけ込み、紙製品はいらないと言い立てる。しかしながらここで、日本人に資本力が有って、外人の計略に乗らず、いつまでもその製品を持つ事ができるならば、需用は有るものなのだから他のところから購入に来ますが、このような色は見せません。これは日本が小国であることを嘆息するしか仕方がありません。製造家と販売者はよくよく心を合わせて内での競走を止め、各自互いに貿易拡張になることを願うべきである。
第三 外人が日本の品を疑い、百あるものならば百を一つ一つ検査せねば買い入れをしないというのは、ただ双方が心の解け合いが少ないというものです。どうぞよくよく解け合い、心置かずに貿易品をちょうど薬屋が得意先へ薬を買い入れるようにしたいものです。さてこの解け合う事は交際が薄いためであるから、外人と懇親会などしたいと思います。
第四 売買交渉しているときに他の産地から見本を持ちこみ、同格の品を安価にできると申し込み、先の方の努力を奪うようなことが山々ございますが、その実、これは行われる事ではありません。これはただ共倒れというものです。世の悪進歩でございます。これによって製造家は困ります。少し大きい目を見開き合う事で、明日、あさっての事を見なければ事は運歩となりませんから、諸君はよくよく御注意になりますように。