13.坂本龍馬の手紙 坂本乙女あて(慶応3年)

坂本龍馬の手紙 坂本乙女あて

慶応3年4月初旬(1867)
世の中は牡蠣殻に閉じこもる人ばかり

(現代語訳)
さてもさても、お話のおかしさは腹を抱えて笑うほどでした。秋の日和の例えが、一番面白くておかしいと思いました。私はあの「浮木(うきき)の亀」のことわざのように(百年に一度水面に出てくる目の見えない亀が、浮かんでいる木のたった一つの穴に入ろうとするという寓話でめったにないことをいう)予想もしないことが次々にあって、先が見えませんでした。
この頃、妙な岩に行き当たり、しゃにむに上りました(チャンスを得て挑戦に成功=脱藩を許され土佐海援隊隊長になったことの例えか)。そこで四方を見渡すと、世の中は牡蠣殻ばかり。人間は世のなかの牡蠣がらの中に住んでいるものですなあ。おかしいおかしい。(狭い世界で、広い視野もなく生きていることを皮肉っている)めでたい、さようなら。   龍馬
乙姉様みもとに。(後略)

(解説)
龍馬お得意の例え話を引用した人生論を展開した手紙です。
古くは拾遺和歌集や狭衣物語、梁塵秘抄などに登場する「浮木の亀」は、百年に一度水の底から上がってきたものの、浮いている木の穴に顔を突っ込んでしまうことから、滅多にないことの意味で使われます。
この例え話は、先月に脱藩の罪が許され、海援隊隊長に任命されたことを指したものではないかと想像します。妙な岩にかなぐり上がって四方を見渡してみると、世の中というのは牡蠣殻ばかりで、多くの人はその中に住んでいると評しています。つまり、狭い世界で、狭い視野しかもたない人ばかりだ、と言いたかったのだと思います。

(高知県立坂本龍馬記念館『龍馬書簡集』より)