7.吉井源太の新聞寄稿「楮皮の説」

吉井源太の新聞寄稿「楮皮の説」

明治28年(1895)

(原文)
前年 今井貞吉氏東北漫遊ノ際 山形県鳥海山裾野ニテ楮樹ノ実 覆分子ノ如クナル見テ車ヲヨセサセ其実取リテ帰県ノ上之ヲ蒔植スルニ 迅速発芽之成生木サセ十分生植繁茂

又々該樹ニ果実ヲ結繁茂スルニ付 我々ニ此樹質ノ検査依頼ニヨリ之ヲ実検スルニ 該樹ノ質ハ則上等也

土佐ニ於テ赤楮ト称ス紙原料第一等品ニ有之候 是ハ製紙ノ上繊維緻密也 紙面ニ光沢有リ又弾力強シ故ニ該樹ハ香桑第一ノ麻葉ト云フ質ナリ 品種ノ第一品ニ有之候

然ニ楮栽培ニ各方法有 根分苗 根伏苗 指苗 実蒔苗アリ 各方法ノ中蒔立苗ヲ以テ良トスルニ 近年該苗木高価ニシテ小民共苗木ニ困難スル有リ

此度ニ至リテ該実蒔ヲ盛成ニ致シ度ト厚案シテ 今井氏ヨリ貰イウケシ

国ノ為ニ紙原料増殖ノ為 諸君参考ノ一緒トシ新聞紙ニ掲テ諸君ニ呈スルモノ也

(現代語訳)
前の年に今井貞吉氏が東北を漫遊した際、山形県鳥海山裾野において楮樹の実が覆分子(ベリー)のようになっているのを見て車を寄せさせ、その実を取って帰県し、これを蒔いてみた。すると早速発芽し成長、十分に繁茂した。

また、この樹には実がたくさんついたので、我々にこの木の質の検査依頼があった。これを実検してみると、この木の質は上等であった。

土佐において赤楮と呼ばれる紙原料の第一等品である。これは製紙において繊維が緻密で紙面に光沢が有り、また弾力がある。この木は香桑(楮類)第一の麻葉という質である。

楮栽培には各種方法がある。根分苗、根伏苗、指苗、実蒔苗があり、各方法の中で実蒔苗を良であるとするが、近年はその苗木が高価で、小民共は苗木に困難している。


このたび実蒔を盛んに致したいと考えて、今井氏より貰いうけた。国の為に紙原料増殖の為に諸君の参考の一つとして新聞紙上に掲載するものである。