吉井源太の手紙(控)大分同業者あて
明治22年8月21日(1889)
(原文)
本月十二日之貴翰拝見仕候 残暑之候益々御清福奉賀候 次ニ弊事業日々相営候間御神休被成下度 誠ニ鰾木糊ノ一件日々御尽力ト察シ候間 尚此上ナガラ御勉励相願度
過日常置員会席ノ談話 實ニ椅子論已ニテ進歩ノ道ヲ践ミ不申 實ニ因循姑息ニ而不満ニ有之候処 此段頭取ヨリ御報相成候間御良知相蒙度 是ヨリ冷気ニ催シ候ヘハ 好結課ト相楽ミ居候 然ニ製紙教師之義御出越有之候 各傳習品數々有之候へとも大略有合之種類 送納候間 御覧相成度 水凌 壓寫 墨取 天工 生寫又ハ両表ニテ墨ノ漏ラサルモノ有之候間 段々海外輸送一端トモ相成候間 御参考相成度
扠々貴大分懸ニ於テハ原料紙種多量ノ産地ナレハ充分盛大ナル見込相立候也 楮 雁皮 三椏其外紙種適スルノ山木野草有之候哉
探知致シ度已ニ御座候間 草々
(現代語訳)
本月12日のお手紙拝見いたしました。残暑の候、益々御清福お慶び申し上げます。次に弊事業は日々営んでおりますので、御神休くださいますように。本当に、鰾木糊(ノリウツギ)の一件では日々御尽力のこととお察しいたしております。なおこの上ながら御勉励ありますように。
先日の常置員会の席での談話は、実に椅子論のみで、進歩の道をふんでおりません。実に因循姑息で、不満であります。この段頭取より御報せいたしますので、御良知くださいますように。これより冷気の催す候ですので、好結果が出ること楽しみにしています。
製紙教師のことを御申し出くださいました。各伝習品が数々ございますが、大略有る種類を送納いたしますので、御覧ください。水凌(水をはじく)、圧写、墨取、天工(典具帖)、生写または両表に書いて墨が通らないものがあります。段々と海外輸送の一端ともなっておりますので、参考にしていただきますように。
さて貴大分県においては、紙原料多量産出の産地ですので、充分紙業が盛大になる見込が立ちます。楮、雁皮、三椏そのほか紙原料に適する山木野草があるのではないでしょうか。探知したいと思います。 草々