17.薬袋紙

薬袋紙(やくたいし)

伝統的に土佐でのみ漉かれた特別な紙。厳しい制限のもとにおかれていた土佐藩の御用紙漉(ごようしすき)によって漉かれた紙のうちでも、最も特殊な紙だった。『日本製紙論』で、この紙は、江戸時代に土佐以外でこれを製造したり販売したりすることが非常に厳しく禁止されており、禁止を破った人はすぐに発覚して打ち首になったと説明されている。一般の人が使うことは禁じられ、毎年の暮と年初に藩主より徳川氏へ必ず献納され、これを「暮献上」、「春献上」と呼んだ。製造方法は一子相伝とされ、職人を雇う際にも誓約書を入れさせたとされている。
用途は、貴族など上流の人たちの衣服を包んだり、医師の用いる薬を包むことだった。この紙に包めば衣服の色あせがなく、また薬剤の香りも長い間決して失われることがなかったという。
日記に製造方法がかなり詳しく説明されている。原料は雁皮(がんぴ)で、ゴミや汚れがないように、ごくごく精選した原料皮を木灰(もくばい)の灰汁で煮たあと、水で洗う。ここでまたチリなどをよく除いてから布の袋をかぶせた桶に流し込んでよくかき混ぜ、その布袋を上げて3時間絞る。さらに圧搾(あっさく)器にかけて圧し、水がなくなるようにする。こうして作られた雁皮の原料は、染料となる蘇芳(すおう)という植物を煮詰めた液体と、ヤマモモの皮を煮詰めてから木の灰汁を混ぜた液体とともに漉槽(すきぶね)に入れ、さらに硫酸鉄を加えてから漉く。このように、これを漉くときには真水は全く用いない。製造の時には酒、煙草、蜜柑(みかん)といったものを近づけてはいけないと書かれている。
維新後、このような紙の製造方法を習いたいといってくる人には指導をしたということも日記には出てくる。

◇◆ 注釈 ◆◇
雁皮(がんぴ)の繊維形状は扁平で細かく、また原料に含まれる成分は、紙漉の時に繊維を分散させるために混ぜられるネリと同じような働きをするので、この原料で漉くときには複雑に繊維が絡み合って緻密で滑らかな紙ができ、このため外界の酸素が内部まで侵入しにくいとされている。
また全体がコンニャクのりで覆われたと同じような強い紙になる。さらに蘇芳(すおう)やヤマモモで色をつけることによって日光を防ぎ、中に入れられたものの変質を防ぐと考えられている。これらは染料として明治以前から多く用いられていれた。