8.湿式不織布で用途拡大

湿式不織布(ふしょくふ)で用途拡大
―紙か布かの境界へ―

「不織布」という言葉は、この5年ほどで徐々に市民権を得てきたといえる。ウェットティシュや水切り袋、掃除用品、お茶のパック、衛生用品など、不織布は身のまわりにあふれている。

ゴールデンウィークにいの町で開催されるイベント、「仁淀川紙のこいのぼり」の主役であるこいのぼりたちは、不織布でできているので、実際には「紙」ではない。不織布の定義には紙は含まれないからだが、しかし、白く薄く半透明なタイプの不織布を手にした時、どこか典具帖紙をイメージさせられる。

高知県では不織布を製紙会社(あるいは製紙から出発した会社)が製造しているので紙と同等に扱われることが多いが、他産地では繊維会社系の生産が主流という。

不織布の製法は大きく2つに分けられる。湿式不織布と乾式不織布である。繊維層の形成を水中で行うか、空気中で行うかで湿式・乾式に分かれる。かつて伊野の中心部に工場を持っていた現在の金星製紙は、昭和31(1956)年に国産の技術で初めて、乾式不織布の製造に成功した。2年後には土佐市の廣瀬製紙などが湿式不織布の生産を始め、日本も不織布の時代が幕を開けた。

湿式不織布が開発された時期と化学合成繊維が開発された時期とは重なっていて、先に衣類用途から開発が始まった。レーヨンによる湿式不織布から、ビニロン・ナイロン・ポリエステル・複合繊維などによる均質な地合の湿式不織布が開発された。これは典具帖紙に代表されるような、薄くて均質な楮の繊維を化学合成繊維に置き換えた製品である。

湿式不織布を簡単に定義するなら、現在、業界の基準では、一部の例外を除いて、原料の半分(51%)以上が化学繊維であれば、不織布と呼んでいる。

本県では、いの町や土佐市で不織布製造に関わるメーカーの前身が、すべて和紙製造から出発していて、湿式不織布の製造機械は機械抄き和紙と共通の技術が多く使われている。和紙の原料である楮を配合した薄い不織布も作られている。

また、廣瀬製紙(株)が湿式不織布から技術展開した化学合成繊維による電池のセパレータ、そして平成27(2015)年度に同社が県地場産業大賞を受賞した極薄型断熱材(紙)のように、ルーツにある薄く均質な和紙を抄く技術は、やはり高知のお家芸といえる。